第一話:バーコードハゲにはご注意を

 

 

その日俺は、大学から一人暮らしのアパートまでの帰り道を、小走りで帰っていた。

突然の雨に降られ、傘を持っていなかったが、洗濯物も干してきていたので、ずぶ濡れ覚悟で雨の中を走りアパートへと急いだ。

 

今日に限って大家さんは出かけてるんだよな…

 

俺は居てほしいときにおらず、居なくていいときにいる大家さんを恨んだ。

 

せめて他に住人がいればなぁ

 

俺、井上大和(イノウエ ヤマト)の住むアパートの住人は、俺のみである。

正確には、一階に大家さんが住んでいて二階に俺が住んでいるだけである。

部屋数6という、ちっぽけで今にも崩れそうなオンボロ木造二階建て。

六畳一間とトイレに、狭い台所ともいえないような炊事場だからだろうか。

風呂がないからだろうか。家賃は一万の格安アパートである。

 

やっぱり今どき、風呂くらいついてるところに入るよな

 

大和は大学生活4年間で、このアパートには誰も入ってこないだろうと考える。

 

 

カッ

 

 

目の前が一瞬真っ白になった。そして次の瞬間━━━━

 

 

ド――――――――ン

 

と何かが落ちたようなデカイ音が響いた。

 

カミナリか…?

 

俺は真っ白な光で見にくくなった視界が、だんだんと回復していくにつれ不安になっていく。

アパートの方角から、もくもくと煙のようなものが立ち上っている。

 

おいおい、嘘だろ…あのボロアパートがカミナリなんかにやられたら、ひとたまりもねぇって…

 

俺は心臓のスピードが上がるにつれ、走るスピードも上がる。

 

大家さんいない間にアパートなくなっちまったら大変だ。俺も路頭に迷っちまう

 

アパートに到着したころには雨がやんでいた。俺はアパート自体に何も害はないか確認する。

 

よし、本体異常なし

 

俺はとりあえず一安心をする。しかし、煙は明らかにこの敷地内から立ち上っている。俺は庭を確認しに回る。

そして、そこで俺は、とんでもないものと出逢うハメになる。

庭に回った俺は、自分の目を疑った。そこには、金色の球体に角と足が二本づつはえたようなものが転がっていた。

その足のうち一本は折れてしまい、球体自体、斜めに傾いて倒れている。

そう、いわゆるUFOらしきものが、大家さんが丹精込めて育てている花壇の上にゴロリと転がっている。

もちろん花壇は崩壊してしまっている。周りを囲っているブロック塀も少し花壇崩壊の影響を受けている。

 

これは夢だ…悪い夢だ…カミナリとともにUFOが落ちてくるなんてあるか…あってたまるか

 

俺は必死に現実逃避をはかった。が、やはり現実は現実。どうにもならない。俺はただただ呆然と立ち尽くしていた。

 

シュー…ガコン

 

突如、球体の足の間が腹話術の人形の口の形のようにカパっと開いた。

大袈裟な音とは裏腹にほんの少しだけ…人間の頭だけが出るサイズくらいに。俺はビビって逃げ出したかったが、足がすくんで動けない

 

ヤバい

きっと宇宙人だ

地球侵略だ

その手始めに俺が殺られるんだ

 

俺はもう普通に物を考えられなくなっていた。

俺はいまにもチビりそうな妄想を膨らませ、ガクガクする膝で、球体の開いた口を見つめることしかできなかった。

 

 

ズル

ズル

ズル

 

何かが這うような音とともに、少し開いた口から顔らしき物がヒョコっと出てきた。俺は目が点になった。

 

「た…助けてください…。」

 

ひびが入って曇ったメガネに、ぴしっと絵に描いたようなバーコードハゲ。そんなオヤジが俺を見つめ、助けを求めている。

 

「ちょっと…失敗しちゃった…」

 

オヤジは俺を見つめ、必死に助けを乞う。実験かなんかに失敗したのか?俺はいまいち状況を整理できず、いまだに立ち尽くしたままでいた。

 

「あの〜…だからちょっと引っ張ってもらえません?」

 

オヤジは、はじめは必死に俺を呼んでいたが、徐々になんだかダルそうになっていく。

 

「ねぇ…ちょっと聞いてんの?」

 

とうとうオヤジは怒りをあらわにしだした。

 

「助けてって頼んでんじゃん、つっ立ってないで助けろや」

 

ついに命令口調になった。俺はやっと一歩、足を前へ動かした。

 

「なんだ、動けるじゃん」

 

オヤジは少しホッとして笑う。

 

「ワテ、人形に話しかけよんかと思ったわぁ!人形にキレよんかと思った〜!良かった〜生きとって〜!

兄さん、こっちこっち、ここから引っ張って」

 

オヤジは何か安心したのか、ペラペラと喋り出す。俺はまだ少し震える足で恐る恐る歩く。

 

このバーコードハゲ…どう考えても宇宙人ではないだろ

 

俺は少し安心して球体に近寄る。なんかの研究開発?うちの大学にそんな学部あったっけ?

俺はやっと正常に動き出した頭で、この状況を把握しようと努力する。

 

「いっやぁ〜、ホントはね、このハッチは階段みたく開くんだけど〜、ちょっと操作ミスっちゃって」

 

オヤジは申し訳なさそうに、毛の薄い頭をポリポリとかく。俺はオヤジのそばまできた。

 

「ゴメンねぇ〜、この隙間から引きずり出してもらっていいかな」

 

オヤジは手を差し出し、引っ張れとうながす。俺は言われるままにオヤジを引っ張った。

 

グッ

グッ

グッ

 

オヤジは思いの他、重たくなかなか出てこない。

 

「がんばれ〜」

 

オヤジは涼しい顔で俺を応援する。

 

「あ、あの、ちょっと、そっちも、ちょっと、頑張ってください」

 

俺は、ゼイゼイと息をきらしながら、ついにオヤジに話しかけた。

 

「え?これでもがんばって踏ん張ってんだけど」

「踏ん張るなよっ!逆だろ、引っ張ってんだから!」

 

なんなんだ、この糞オヤジ!助けてもらう気あんのか!

 

 俺は怒りがこみ上げてくる。

 

「あ、そっかゴメン!じゃぁ踏ん張らない」

 

オヤジはテヘって舌をだして謝る。

 

気持ち悪いよ

どうみたって中年にしか見えねぇオッサンが、ブリッコすんじゃねぇよ

 

俺は軽く殺意を覚えた。

 

「頼みますよ…せーのっ」

 

俺は思いっきりオヤジを引っ張った。

 

「わぁっ!」

 

ガッシャ――――――ン

 

今度はとてつもなく軽く、俺は背後にあった盆栽へオヤジもろとも吹っ飛んだ。

 

「いってぇ…」

 

俺は後ろ頭を軽く打ったくらいですんだが、オヤジは俺より遥かに勢いよく吹っ飛んだようで顔面から盆栽へ突っ込んでいる。

 

 

 

 

「ちょ、大丈夫ですか…」

 

俺は恐る恐るオヤジを揺らす。

 

ピピッピピッピピッ…

 

突然、電子音がなりだした。

 

な、なんだ!?

 

俺はオヤジから手を離し、キョロキョロと周りを見渡す。

すると、少し向こうに銀色に光るブレスレットのようなものが、黄色い光を発しながら音を出している。

俺は恐る恐るブレスレットを拾おうと、手を触れたその瞬間、ガチっとブレスレットがひとりでに俺の腕に吸い付くようにハマった。

 

えぇっ!?なにこれっ!?え、とれねぇっ!?どうなってんのっ!?

 

俺はひとりでにハマったブレスレットをはずそうと、必死に引っ張るがウンともスンともいわない。

 

おいおい、嘘だろ…

ちょっと待て…慌てるな…きっと何かカラクリがあるはずだ…

 

俺はとにかく冷静になろうと、必死に心を落ち着ける。相変わらずブレスレットは黄色い光を発し、電子音がやまない。

 

ちくしょう、うるせぇよ

 

俺は一定のリズムで刻まれる電子音に苛立ちを覚えだす。

 

「う…………ん」

 

後ろでハゲオヤジが気がついたのか、声をあげた。

 

 

「お、おじさん!これ、勝手にハマっちゃって!」

 

俺は慌ててオヤジに向かい、ブレスレットのはまった腕を差し出す。

オヤジは薄い頭を痛そうに撫でながら、ゆっくり起き上がる。オヤジが起き上がった瞬間、黄色い光と電子音が止んだ。

 

え?

 

俺は不思議にブレスレットを眺める。

 

「脱出成功か…」

 

オヤジは鼻血を垂らしながら、その場に座りこむ。

さらにひびがひどくなり、壊れかけたメガネに少し乱れたバーコードハゲ。

藍色をしたアロハシャツと、綿100%であろうハーフパンツにビーチサンダル…という真夏の沖縄スタイルだ。

 

「いやぁ〜助かったよ。ありがとう」

 

オヤジは鼻血をたらしたまま、俺に握手を求めてきた。俺はとりあえず、手をとり握手をかわす。

 

「自己紹介が遅れてすまない。ワテは今日から地球の平和を守ることになった、アンドロダ=シャー=ロイヤルだ」

 

 

俺は自分の耳を疑った。

 

「通称、シャーだ」

 

ガンダム?

 

俺は心の中でツッコむ。

 

「見てわかると思うが宇宙人だ」

「いや、わかんねぇよ」

 

俺はついに声に出してツッコんだ。

 

「え?だってほら、UFOに乗ってきたし、バーコード頭にメガネだし。」

「バーコードハゲにメガネが宇宙人なら、日本の3割がた宇宙人ですよ。」

「え、そうなの?あぁ…やっぱり惑星によって宇宙人という概念は違うんだね。」

 

どんな宇宙人の概念だよ。俺はアホを見る目でオヤジを見る。

 

「まぁ、とりあえず、信じる信じないは別としてワテが来たからには地球は安心やから。」

 

オヤジはヘラヘラと笑って立ち上がる。

 

頭、おかしいんじゃねぇか、このオッサン

 

俺は微塵も信じず、オヤジを軽蔑の眼差しで見つめる。

 

「いっやぁ〜…派手にやっちゃったね。」

 

オヤジは他人事のように金色の球体を眺めて言う。

 

「あっちゃ、スタンド一本いっちゃってるよ。これ直んのかな。」

 

オヤジは球体の周りをぐるぐると回りながら故障を探す。

 

「あの〜…それ、何の開発品ですか」

 

俺はオヤジに聞いてみた。

 

「開発品?なに言ってんの、これワテのマイカーよ。まだローン終わってないのに。」

 

オヤジは残念そうに呟く。

 

「カーって走るんですか?」

「走るし飛ぶし転がるし…ワープ機能もついてます。」

「いや…UFOっぽく言わなくていいから。」

「いや…これUFOだから。」

「いや…もういいって、宇宙ネタは。」

「いや…ネタじゃないって…。」

「いや…だからもういいって。」

 

しばらく、こんなグダグダなやりとりが続いた。オヤジはフゥと一息つき、俺に向き直って堂々と言い放った。

 

「ワテは金河連邦軍特別警察部隊、少佐位だ。今回は敵に不穏な動き有りということで、母星より遥か離れた地球へ長期出張の単身赴任でやって来た。」

 

 

は?

 

 

「通称、シャー少佐だ。」

「だからガンダムかよ。」

 

俺はすかさずツッコむ。

 

このオッサン、本当に頭大丈夫なのか?

絶対地球人だろ?そして日本人だろ

 

「地球の大気圏って危ないじゃん、だからちょっと初めてワープ機能使ってみたんだけど…失敗しちゃって。」

 

オヤジはまたテヘっと首を傾ける。

 

このオヤジ殺していいかな

 

俺は苛立ちが徐々にたまっていく。

 

「予定では、日本の九州の沖縄の那覇ってとこに到着なんだけど…そういや、ここどこ?」

 

オヤジは思い出したように俺に尋ねてきた。

 

 

「日本ですが…九州は九州でも、ここは大分県の田舎です。」

「オオイタ…?」

 

オヤジはポケットからガイドブックらしきものを取り出し、何やら調べはじめた。

 

「オオイタ…オオイタ…あ〜大分!湯布院!別府!オンセン!お風呂!ジゴク巡り!うん、いいね!大分悪くないねっ!」

 

オヤジはガイドブックを見て、何やらはしゃいでいる。

 

「あのさぁ…だから何したいのよ、オッサン」

 

俺は苛立ちが頂点ギリギリまできている。

 

「だから、仕事だって。地球守りにきたの」

「………………」

 

俺は危ないものを見る目でオヤジを見る。オヤジもそろそろ苛立ってきたのか、少々眉間に皺をよせ、口を尖らせる。

 

「日本人って本当に疑り深くて挫けそうになるわっ!わかった、今、決定的な証拠見せたる!」

 

そういってオヤジはポケットをゴソゴソとあさり出した。

 

「……………あれ?あれ?あれ?嘘?あれ?」

 

オヤジはだんだん焦りだした。冷や汗をダラダラと流しながらポケットをまさぐる。

 

「………………ない」

 

オヤジの顔からみるみるうちに血の気がひいていく。

俺は一体オヤジが何をしたいのかさっぱりわからなく、左手でポリポリと頬をかく。

その時、大和に吸い込まれるようにハマったブレスレットが、存在をアピールするようにキラリと光った。

 

 

「あっ!!」

 

オヤジはそれを見逃さなかった。

 

「なんでおめぇがそれつけてんだよっ!!」

 

オヤジが血相を変えて俺に飛びかかってきた。

 

「え?それって?え?なになに?」

 

俺はオヤジの豹変ぶりにビビる。オヤジは俺の左手首のブレスレットを掴み、必死にはずそうと引っ張る。

 

「い―――――てててててててててててててててて!!!」

 

あまりの痛さに叫んだ。しかし、はずれない。

 

ブオン ブオン

 

ふいに表のほうで車のエンジン音がした。

 

「ヤバい!!」

 

あのエンジン音はきっと大家さんだ。花壇とブロック塀崩壊、盆栽大破、そしてわけのわからぬ球体。

この惨劇を見られたらひっくり返るかもしれない

 

「おい、オッサンこれどうにかしろよ!大家さんが帰ってきたじゃねぇかよ!」

 

俺は、俺の左手首にかじりついているオヤジをひっぺがし、怒鳴りかかる。

 

「なんとかなんないの!?」

 

俺はオヤジの肩を持って激しくゆすった。

 

 

 

「井上く〜ん?いるの〜?」

 

 

 

表のほうで大家さんの声がする。

 

「おい、頼むって!!」

 

俺は必死にオヤジをゆする。

 

「………宇宙人って信じてくれる?」

 

ケンカしたカップルの彼女が彼氏に『私の事…好き?』って聞くようなかんじで、オヤジは口を尖らせながら言う。

 

「ああ、信じる!!」

気持ち悪いんだよ、このハゲ

 

俺は本心を隠し、口からでまかせを言う。

 

「ちょっと待ってろ〜」

 

オヤジは少し機嫌を良くし、金色のマイカーの中に手を突っ込み、何やらゴソゴソとあさりだした。

そしてオヤジは球体の中からどでかくボロッちい懐中電灯を取り出した。単一電池を3本入れないとつかないような、昔の懐中電灯だ

 

「おい…懐中電灯で何するつもりだよ」

 

俺は不安を隠せずオヤジに問う。

 

「怪獣弁当?」

 

オヤジは意味のわからない言葉を返してくる。

 

 

 

「井上く〜ん」

 

大家さんの声が近づいてくる。

 

「ヤバい!早くなんとかしてくれ!」

 

俺はオヤジをせかす。

 

「まぁ見てなって」。

 

オヤジは懐中電灯の灯かりをつけた。

 

それは一瞬の事で、俺はまた自分の目を疑った。

崩壊した花壇が、懐中電灯の灯かりがあたったところからみるみるうちに元通りに戻っていく。

ブロック塀も盆栽も。俺は何回も瞬きをし、何回も目をこすって確認するが、すっかり元通りである

 

「………マヂで?」

 

俺は現実を受け入れられず目をパチパチするしかなかった。

花壇とブロック塀と盆栽を元通りにしたオヤジは、球体に懐中電灯を直して、開いた口を無理矢理持ち上げて閉めた。

すると今度は金色の球体が一瞬にして、俺の目の前から姿を消した。

 

「えぇっ!?」

 

俺はまた瞬きが早くなる。

 

「金色の玉は!?どこいったの!?」

 

俺は驚きを隠せずに叫ぶ。

 

「あ、おった井上君!雨が降っちょったみたいやけど、洗濯物大丈夫やった?」

 

 

 

小柄でストレートの黒髪を一つに結んだ、30代前後の女性が庭にやってきた。

見た目は大家さんには見えないが、れっきとしたこのオンボロアパート‘かわだ荘’の大家である。

大家さんはすぐに俺の隣にいるハゲオヤジに気付き、ペコリと会釈する。

 

「あら、こんにちは。お父様ですか?」

「違いますっ!!」

 

俺は即座に否定した。

 

「あら…じゃぁお客さん?」

 

大家さんは口元に手をあて微笑む。

 

なんて言ったらいい?宇宙人ですとか言ったら頭を疑われるし…

 

俺は瞬間的に頭を活動させる。しかしそんな俺の苦労をハゲオヤジは一撃で粉砕する。

 

「宇宙人のアンドロダ=シャー=ロイヤルです。ここに住みたいのですが。」

 

なんだとぉぉぉぉぉぉ!?

 

俺は眉間に顔中のパーツよせ、人生最大のビックリ顔でオヤジを見た。

 

「あら、入居希望者やったん!イヤだわ、ゴメンなさい!あ、立ち話もなんやし、うちでお茶でも…」

 

大家さんはオホホと笑い、オヤジを家へと招く。

 

大家さん、宇宙人って言ってるところにはツッコまないのだろうか…

 

不安を隠せず、オヤジの後につき俺も大家さんの家へついて行った。

俺とオヤジは大家さんの部屋であっついお茶をよばれる。オヤジと大家さんは、手続きをしながら無駄な世間話に花が咲く。

 

 

 

こいつマヂでここに住むつもりかよ…

 

俺はお茶をすすりながら、二人のやりとりを眺める。

 

「でもこんなオンボロアパートに入るなんて物好きやねぇ。」

 

いやホントに

 

「いやぁ〜最近はフローリングのところがほとんどじゃないですか、やっぱし畳のほうが日本ってかんじでそそりますね。」

 

なんで部屋が畳って知ってたんだよ

 

「やだよ〜そそるだなんて!…えっと名前なんでしたっけ?」

 

大家さん照れるところじゃないでしょ

 

「アンドロダ=シャー=ロイヤルです。シャーでいいです。」

「シャーさん?すごい名前やねぇ、出身はどこで?」

 

大家さん普通に受け取めたよ

 

「コリン星です。」

 

ゆう○りん!?

 

「ハハハハハハ!あんた面白いねぇ!芸人さんかい?」

 

さすがに冗談で流したよ

 

「いえ、警察部隊の少佐位で日本には出張で。」

「へぇ〜そうなん!大変やねぇ、困ったことがあったらいつでもうちにおいでなぁ。」

 

大家さん、日本の警察と思ってるよね

 

 

「ありがとうございます、助かります。」

「えっと、じゃぁ家賃は月一万で、お風呂は斜め前にある銭湯を利用してください。

他になんか困ったことや気付いたことがあったら、いつでもうちに言ってきてください。」

「いやぁ〜大家さんお若いですねぇ、お独りなんですか。」

 

えぇ!?大家さん口説きだしたよ

 

「あらやだ、もう年よぉ〜!主人は3年前に先に逝っちゃってね。」

「その若さで未亡人ですか…大家さん、めぞん一刻ですね。」

 

ガンダムの次はめぞん一刻かよ

宇宙人と言うわりに、日本アニメ詳しいな

 

ピコンピコン

 

俺が心の中でツッコんでいると、突然テレビからニュース速報の音がした。

 

ビーっビーっビーっ!

 

突然、俺の左手首からはずれないブレスレットが赤く光り、けたたましく鳴り始めた。

俺は慌てて左腕を精一杯、体から離す。

 

「おおとろっしゃっ!!井上君、なにそれ?」

 

(大分方言豆知識)

おおとろっしゃい=訳:超ビックリした

(かなりビックリした時に言う田舎言葉)

 

大家さんが目を見開いて俺を見る。すると突然、オヤジが俺の腕をつかんで立ち上がった。

 

「防犯グッズです!お茶ごちそう様でした、また来ます!」

 

オヤジはそう言って、俺の腕をすごい力で引っ張って大家さんの家から出る。

 

 

「えぇ!?ちょっと、なに!?このブレスレット防犯グッズなの!?」

 

俺はオヤジに引っ張られながら歩く。目をパチパチさせて大家さんが見送る。

後ろから微かにテレビの声が聞こえた。

 

『臨時ニュースです、沖縄県の首里城で宇宙人と名乗る男が次々と人を襲い、逃走中…………』

 

「おい、いいか、覚悟して聞けよ。」

 

オヤジは俺の肩を掴み、ひび割れたメガネ越しに真剣な瞳で言った。

 

「そのブレスレットは、俺が組織から受け取った、肉体強化兵器だ。」

 

俺は何の話をされているのかさっぱりわからない。

 

「そのブレスレットが赤く光って、警報がなるときは、反政府軍が地球に侵入した時だ。

ようするに、今、地球に敵がいるんだ。」

 

俺は全く事態を呑み込めない。

 

「それがおまえからはずれない以上、おまえが闘うしかないんだ。わかるか?」

「闘う!?」

 

俺はあまりに突拍子のない話に叫ぶ。

 

「時間がない、急いで変身して奴を捕まえてこい。」

「いや、意味わかんねぇって!!」

 

俺はオヤジに怒鳴りかかる。

 

「これ以上、説明する時間はない!」

 

オヤジはそう叫んで、俺のブレスレットのついた腕を上向きに引っ張り上げた。

━━━━次の瞬間、俺は首里城にいた。

 

 

……………………えぇっ!

 

俺は目の前の風景が一変したことにひどく驚く。

 

「ちょっ…………えぇ!?首里城じゃん!?」

 

ちょっと待て?さっきまでアパートで大家さんとお茶飲んでたよな?で、オヤジに引っ張り出されて…首里城?

 

俺はパニックになる。

 

『おい、聞こえるか?』

 

突然ブレスレットからオヤジの声がした。

 

「おぉぉぉぉい!一体どうなってんだよ!!」

 

俺はブレスレットに向かって吠える。

 

『近くに敵がいるはずだ、気をつけてよく聞けよ。』

 

信じられないが、本当にブレスレットから声が聞こえる。

 

『そのブレスレットを三回こすると肉体強化スーツに変身できる。

そして、変身したままで一回だけこすると武器が出てくる。ここまでいいか?』

「変身!?武器!?」

 

俺はパニックで冷静にオヤジの話を聞いていられない。

 

『落ち着け!……おまえ名前は?』

 

オヤジがブレスレット越しに怒鳴っている。

 

 

 

「い、井上…やまと」

 

 

俺は泣きそうな声で答える。

 

『ヤマト、しっかりしろ!大丈夫だ、俺がついてる!』

 

余計心配になるようなこと言うなよ…。俺はどうしていいかわからずキョロキョロと周りを見渡す。

 

「キャ――――っ!!」

 

突然、後ろから女の人の悲鳴がした。俺は驚き振り返る。

 

俺は目を疑った。

そこにはバーコードハゲのオッサンに追いかけてられている女の人が叫びながら逃げているではないか。

 

またバーコードハゲ?痴漢?変質者?

 

女の人が、俺に向かって走ってくる。

 

おい、こっち連れてくんなよ

 

「助けてください!」

 

女の人は俺に助けを求めた。

 

勘弁してよ…

 

俺はぶっちゃけ面倒くさかった。バーコードハゲがこちらへ近づいてくる。

 

すると、ブレスレットが眩しいくらいに赤く光りだし、警報がさらにデカイ音で鳴った。

バーコードハゲはビクッと立ち止まり、俺をじっと見つめる。

 

 

 

「なんだおまえは……まさか連邦軍か!?」

 

向こうのバーコードと似たようなこと言いだしたよ…警報鳴ってるし、コイツも宇宙人だってゆうのか?

 

俺はうんざりする。

 

「ちくしょう、ここで会ったが百年目、覚悟!」

 

そう言って、ハゲが俺の目の前から消えた。

 

え?

 

俺は戸惑う。

 

『ヤマト、どうした!?敵か?敵が現れたのか?おい、応答しろ!!』

 

ブレスレットが怒鳴っているのを無視、俺は辺りを見回しハゲを探す。

 

「………ぐっっ!!」

 

突然、俺は背後から首を絞められた。

いつの間にかハゲが俺の背後で、人間の力とは思えないパワーで俺の首を絞めている。

 

「………………っっ!」

 

俺は声が出せず、どんどん苦しくなって意識が遠くなる。

 

俺はバーコードハゲに殺されるのか

俺の人生はこんなもんだったのか

彼女の一人くらい欲しかったな

母ちゃんゴメンよ

 

『ヤマト!!敵がきたのか!?早く変身するんだ!!』

 

 

遠のく意識の中、ブレスレットからのオヤジの声が俺の耳に届いた。

 

…………死にたくない

ハゲに殺されてたまるか

 

俺は藁にもすがる思いでブレスレットを三回こすると、突然カッと目映い光が俺をつつんだ。

 

「うわぁ!」

 

バーコードハゲが一瞬ひるんだ隙を逃がさず、俺はハゲの腕から脱出する。

 

「………貴様っ!それはっ!」

 

ハゲは俺の姿を見て、目に恐れの色を出す。

 

「それはまさか………っ!!連邦軍が切札として極秘開発していたという肉体強化スーツか!?」

 

バーコードハゲはたじたじである。俺は何が起こったのかわからず、とりあえず自分の体に目を向ける。

 

 

「なんじゃこりゃっ!!」

 

俺の体は蛍光がかった真っ黄色いタイツに、爪の先までつつまれていた。

慌てて姿がうつるものを探し求めて土産屋のガラスに走り寄り、自分の姿を見て泣きそうになった。

そこには頭のテッペンから足の爪先まで全身蛍光黄色のタイツ人間が、俺がとっているであろうポーズでうつっている。

腰には銀のベルトがまいてあり、両目の部分にはウルトラマンのようにつりあがった白い楕円がくっついている。

 

これ、俺っ!?

 

俺はガラスにひっついて自分の姿をマヂマヂと見つめる。

 

 

「キャ――――っ!!」

 

再び女の悲鳴がして、俺は振り向く。

 

「ハッハッハ、連邦軍が我々の撃退用に秘密兵器を開発してたことはお見通しよ!

しかし、それはこの星の住民を守るため!いくら変身しても守れなかったら意味がなかろう!」

 

バーコードハゲが高らかに笑いながら、さっきの女の人を捕まえて、拳銃らしきものを構えている。

さすがにその光景には俺も焦る。

 

「なっ、おい、銃をおろせっ!」

 

俺は必死にハゲに叫ぶ。

 

「一歩でも前に出てみろ、この女の命はないぞ。」

 

ハゲはハッハッハと笑いながら、じわじわと後ろへ逃走をはかる。

 

どうすればいい?

 

いつの間にか、周りにはたくさんの野次馬がいる。俺は足を動かした。

 

「おっと!動くなって行っただろ?コイツだけじゃなくて、この辺一帯に乱射しちゃうぜ?」

 

ハゲが拳銃を野次馬に向けると、キャー、ギャーと周りが騒然となった。

 

『ヤマト!聞こえるか?変身はしたか?』

 

腰のベルトからオヤジの声がする。

 

「おい、どうすればいいんだよ、おまえみたいなバーコードハゲが拳銃こっちにつきつけてんだよ。」

 

俺はベルトに向かって話しかける。

 

『ベルトを一回こするんだ、そしたら武器が出る!』

 

俺は言われるまま、ベルトを一回こすった。

するとベルトのバックル部分がパカッと開いた。ウィーンと何かが出てくる。

 

……ちくわ?

 

 なんとベルトから、一本のちくわが出てきたではないか。

 

おいぃぃぃぃぃぃぃ!!

ちくわで何しろっちゅぅんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

『武器は出たか?』

「ちくわが出てきたよぉぉぉぉぉ!!!ちくわがぁぁぁぁ!!!ちくわで闘うのかぁぁ!?」

 

俺はあまりにも期待に裏切られ、なんとも言えない虚しさに襲われる。

 

『チクワじゃない、チワワだ』

 

チワワ!?これチワワって言うの!?

 

俺はもう頭がついていけない。

 

『チワワを早く奴にむけて!』

 

俺はとにかく言われるまま、チワワと呼ばれるちくわをハゲに向ける。

 

「!!」

 

しかし、これに敵は動揺を見せる。

 

「貴様、それは…チワワ!!」

 

…マヂでコレきいてんの?

 

しかしハゲはまた余裕の表情に戻って鼻で笑う。

 

「その構え方…貴様チワワの使い方しらんのか?」

 

ハゲに馬鹿にされ、俺はちくわを人に向けて威嚇する自分が恥ずかしくなってくる。

ベルトからオヤジが喋った。

 

『奴が10m離れてしまう前に、奴に向かってチワワを吹くんだ!!』

 

吹く?あ、コレって吹き矢的な用法なのか?

 

俺はすぐにちくわを口にあて、思いっきり吹いた。

 

「うわぁっ!!!」

 

突然ハゲは叫びながら後ろ向きに倒れた。俺は何が起きたかわからず、ちくわを口に構えたまま固まる。

ハゲに捕まっていた女が走ってこちらへ向かってくる。

 

「あ、あの、ありがとうございました!」

 

女は涙目で俺に礼を言った。

 

「あなたは何者ですか?」

 

俺は我に返り、言葉を無くす。

 

何者って…

 

俺は自分の今の姿を思い出し、絶句する。この姿は一体何者なんだ?

 

『おい!ヤマト!ヤマト!!やったのか!?』

 

ベルトからオヤジが叫ぶ。

 

 

 

「ヤマトさん?」

 

女が俺を見る。

 

このタイミングで名前呼ぶんじゃねぇよっ

 

俺はなんとか本名をもみけそうと頭を働かす。

 

「私の名はヤマトマン!!お嬢さん、無事でなによりです。帰りはお気をつけて!!」

 

俺は最高に低い声で、そう言って、その場を走り去った。

その後、手頃な公衆便所に駆け込み、俺はタイツを脱ごうと奮戦した。

 

『おい!ヤマト!応答せんか!おい!ヤマト!ヤーマート!…………宇宙〜○艦、ヤーマート〜♪』

「誰が宇宙○艦だっ!」

 

俺は思わずツッコむ。

 

『なんだ生きてたか』

 

このオヤジ、ホントは日本人だろ…しかもアニメオタク。

 

しかし、このタイツ、なかなか脱げない

 

「おい、オッサン、このタイツどうやって脱ぐんだよっ!」

『あぁ、またベルトを三回こすったら戻るよ。』

 

俺はまたベルトを三回こする。すると、ベルトがピカッと一瞬光り、俺は元の姿に戻った。俺は一安心して、便所を出た。

 

目の前には首里城。

 

あれ?俺、どうやって帰ればいいの?

 

 

「オッサン!!」

 

俺はブレスレットに向かって吠える。

 

「おい、オッサン!!」

 

しかし全く反応がない。

 

「オッサ―――――ン!!!!」

 

雲一つない沖縄の澄みきった青空に俺の悲痛な叫びが響き渡ったのだった。

 

 

 

第一話 完

 

NEXT→

inserted by FC2 system