第二話:バーコードときゅうりと俺、そして馬

 

 

朝の日差しが目にしみる。チュンチュンと雀がさえずる。

俺は今、俺の住むオンボロアパートの前にいる。

 

……………

 

寝起きだからか…疲れているからか…頭が働かない。

 

俺…沖縄にいなかったっけ?

昨日のことは夢だったのか?

 

ガチャン

 

昨日まで誰も住んでいなかった俺の隣の部屋から、シャーとか名乗るバーコードハゲが出てきた。

 

「…ヤマト〜!」

 

シャーは俺の姿を見るなり、飛んでくる。

見るからに俺を心配して駆け寄ってきた風なのに、シャーは突然人間技ではないハイパージャンプをし、俺にドロップキックをくらわした。

 

「ぐぇっっ!!」

 

なんでドロップキックくらわなきゃなんねぇんだよっ!

 

「おまえ一人で沖縄行きやがって!ずりぃぞ!」

 

好きで行ってきたんじゃねぇよ

てかやっぱし夢じゃなかったのか

 

「…俺、やっぱし沖縄にいたの?」

 

俺は念のため、シャーに確認をとる。

 

「なに寝ぼけてんだよ!嫌味か!?ワテに対しての!?」

 

シャーはカンカンだ。

 

「じゃぁ俺…どうやって帰ってきたの?」

 

俺はボーっとした頭でシャーに聞いてみる。

 

「……………おまえ、帰り方わからなかったの?」

「………うん」

 

シャーはしばらく黙ってから言った。

 

「…………まっ、帰ってこれたんだし結果オーライ!!」

 

シャーはグッと小指を立てた。

 

…なんで小指立ててんの?

 

「…おまえにはいろいろと教えなきゃならないようだな」

 

シャーはいかにも面倒くさいという顔をした。

 

「まぁ、ワテの部屋にこい」

 

そう言ってシャーは俺を部屋に案内した。

 

俺は、またもや信じられない光景を見なければならなかった。

 

「ちょっとぉぉぉぉぉ!!!なにこれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

シャーの部屋に入った俺の第一声は近所中に響き渡った。

六畳一間にトイレに狭い炊事場。そこまでは俺と全く一緒だ。

しかし…ない。

俺の部屋とコイツの部屋を区切っていたはずの……壁が、ない。

 

「なんで壁なくなっちゃってんの!?なんで吹き抜けになっちゃってんの!?

なんで12畳一間になってんの!?トイレ丸見えじゃん!!これじゃ一つの部屋じゃん!!」

 

俺はシャーに向かって叫びまくる。

 

「…そんな同棲だなんて、大袈裟な」

 

シャーはポッと頬を赤らめる。

 

「頬を染めるなぁぁぁぁぁ!!同棲とか言うなぁぁぁっ!!気持ちワリィんだよぉぉぉぉ!!」

 

俺は怒りを通り越して殺意を覚えた。

 

「だって、これからおまえはワテがいないと困ると思うよ?」

 

シャーは悪びる様子もなく、サラッとムカつくことを言う。

でも、コイツが本当に宇宙人でこれから昨日みたいなことが起こるというのなら、

確かに俺に一人で対処しきる自信はない。

 

「まぁ、座れ。おまえには言わんといけんことがゴマンとある」

 

シャーはちゃぶ台の周りに座布団を敷き、俺を座らせた。

俺が座ったのを見てシャーも向かいに座る。

 

「まずは…何から話そうか…」

 

シャーは腕組みをして唸る。

 

「その前にさ…」

 

俺は先にシャーに確認したいことがあった。

 

「あんた本当は…日本人だろ?」

 

シャーはハァとため息をついた。

 

「じゃぁ、そこからいきましょうか」

 

そう言ってシャーはテレビをつけた。

 

『今日の天気予報〜♪』

 

見慣れたタイトルと陽気な音楽が部屋に流れた。シャーは真剣な顔で語りだした。

 

 

━━━ここは銀河の太陽系、地球という星だよな?宇宙は広い。まさかおまえ、宇宙は銀河だけだとは思ってないだろう?

‘銀’があるんだ、ワテの星の知るかぎりでは‘金’と‘銅’がある。ワテはその金河に属するバーコード星の出身だ。

ワテらは金河に浮かぶ5つの惑星で同盟を結んでおり、その5つの星を総称して金河連邦と呼んでいる。

ワテはその国際組織の特別警察部隊に勤めている、しがないオヤジだ。

特別警察部隊の仕事は、金河連邦に反旗を翻す反政府組織‘KATSURA’、通称‘K’の取締りだ。

‘K’はバーコード星出身者が中心で動かしており、同盟の解散を望んで日夜テロ活動を行っている。

奴等の目的は、同盟を解散させて、5つの星をバーコード星の配下にしようとしている。

しかし特別警察部隊の取締りが厳しいため、なかなか計画が進まないんだろう。

そして今回‘K’は金河を越え、銀河に浮かぶ太陽系の惑星、地球に目をつけた。

ワテら金河系星人よりも能力の低い地球人を支配下につけ強化し、

組織の人数を増やして、再び金河連邦の破壊に乗り出そうとしている。

 

ここまでいいか?

 

…いや、いいかと言われても。

 

俺はあまりにも非現実的な…空想上のような話なんだが、超具体的な話に頭を痛める。

 

「何か質問は」

 

シャーはなぜか少し楽しそうに聞く。

 

「はい、質問」

 

俺は授業中の子どものように手をあげる。

 

「はい、ヤマト君」

「その…ずっと気になってたんだけど‘ワテ’って…何?」

「こちらでいう、‘私’のことだ。けっこう丁寧な自分をさす言い方だな」

 

ワテが丁寧なのか

 

俺は不思議な感覚を覚える。

 

「おい、そんな小さなことじゃなくてもっと他にないのか」

 

シャーは少し不服そうに言う。

 

「えぇ?…じゃぁバーコード星ってどんな星なのさ?」

 

俺はシャーが聞いて欲しそうな質問を考えて尋ねてみた。

 

「う〜ん…そうだなぁ、けっこう地球と似てるよ。

海と大陸からなってて、様々な生物が暮らしている。人類が発達したところも同じだな」

「へぇ!俺、宇宙人って、いるのならもっと人っぽくないのかと思ってたよ!

よくさ、テレビとかにグレイとかいって変な生物が出てくるじゃん、だから宇宙人ってあんな感じを想像してたね」

 

だからおまえは宇宙人じゃねぇだろ?

 

俺は遠回しに皮肉をこめて言う。

 

「地球人はグレイを知ってるのか?」

 

シャーは意外という顔で俺を見る。

 

…え?グレイって実在するの?

 

「意外だなぁ!銀河は他の河と交流がないから知らないと思ってたよ」

 

シャーは少し感心しながら言った。

 

「…グレイって本当にいるの?」

 

俺はいるわけないと思ったが、念のため聞いてみた。

 

「グレイは銅河の惑星に生息する生命体だ。

まだ謎の多いやつらでな、交流関係を持つには知能レベルが低すぎると言われている。

やつらも地球へ進出してきたのか?」

 

シャーは少し難しい顔で信じられない事をサラサラと話す。頭がパンクしそうだ。

俺はパンクしそうな頭を抱えて必死に話を整理する。

 

宇宙には3つに別れてて?

金河と、銀河と、銅河?

で、シャーは金河のバーコード星の人で?

金河連邦とかいう同盟の特別警察で?

その金河の宇宙人テロリストが銀河の地球人を狙ってきてて?

グレイは銅河に実在する宇宙人?

 

 

信じられない

 

信じられないが

 

作り話にしては出来すぎてる話だよな

 

「わからん……」

 

俺は頭を抱えたまま唸る。

 

「悩んでるな…そうだ!ワテの家族を見せてやろう」

 

そう言ってシャーは一枚の写真を取り出し、俺に差し出した。

俺は写真を受け取って険しい顔になる。

 

え?家族って言ったよね?

 

俺はシャーの言った言葉に疑問を抱く。

 

「これ本当に家族?」

 

俺は思わず聞き返す。その写真には、バーコードハゲしか写ってないのだから。

 

「は?そうだよ?コレが息子でコレが嫁。可愛いだろ」

 

うそぉぉぉぉぉ?

 

確かに嫁さんは可愛い顔してるけど…バーコード頭だよ!?

息子も可愛いらしい子どもだけど…バーコード頭だよっ!?

バーコード星ってもしかして全人類バーコードハゲなのっ!?

 

「息子はアンドロダ=ムーン=ロイヤル、嫁はアンドロダ=ザックル=ウィーン」

 

アンドロダって名字なのか?

 

「略して、アムロとザクだ」

「やっぱりガンダム関係なのかよっ!」

 

俺はツッコまずにはいられない。

 

「まぁ宇宙の実情とワテの家庭についてはそのくらいにして、そろそろ仕事の話するぞ」

 

そう言ってシャーは、またベラベラと現実離れをした話をしだす。

 

━━━まぁ、あれだ。ワテがこんなに可愛い息子と嫁を残して

遥か彼方銀河の地球なんかに来たのは‘K’から地球を守るためなんだよ。

地球人の力では‘K’と闘うなんて無理だ。金河連邦でさえ手を焼いている奴等だからな。

連邦は奴等が地球を標的にした情報を入手し、特別警察部隊に阻止を依頼してきた。

特別警察部隊はある条件と引き換えに承諾した。

条件とは、独自に極秘開発してきた肉体強化兵器の使用許可だ。

使用許可が降りて、誰が地球に行くかの会議になったんだが…誰も行きたがらないんだよ。

で、結局会議に遅刻したワテになったと。

で、いざ地球にきてみたら目的地は間違えるし着陸も失敗だし、

挙げ句の果てには兵器が地球人の手にハマってたからね!

毎日、沖縄でゴーヤチャンプルー食べて、スキューバダイビングして、

流れ星みながら泡盛一杯やるはずだったのに…どうしてくれるんだよヤマト!

 

シャーは話しながらだんだん興奮していき、終いにはちゃぶ台をひっくり返した。

 

なんで俺が責められてんの?

 

俺はもう勘弁してほしかった。

 

「…すまない、ちょっと熱くなってしまった」

 

シャーは落ち着きを取り出し、ちゃぶ台を元に戻す。

 

てか今の話を聞くかぎり、コイツ、沖縄に住みたかっただけじゃん?

 

俺は呆れてシャーを見る。

 

「あのさ…俺、好きでこのブレスレットをハメたわけじゃないんですけど」

 

俺は言い訳をする。

 

「昨日みたいに赤くうるさく鳴ってたわけじゃないけど、コレから音が鳴ってたから拾おうとしたんだよ。

そしたら勝手に俺の手にハマっちゃったの!俺だってこんなのいらないんだけど!」

 

話すうちに苛立ってくる。

 

「なんだよコレっ!?いきなり沖縄にいたり、全身タイツになったり、ちくわ出てきたり!!

だいたいおまえと同じバーコード頭が敵なの?てかバーコード星人ってみんなバーコード頭なの?ふざけてんじゃねぇの?」

 

俺は不満を一気にぶちまけた。シャーは真剣な顔で俺を見る。

 

「…そうか」

 

シャーは重々しく言った。

 

「…ヤマト、おまえは兵器に選ばれたらしいな」

「選ばれた?」

 

俺はシャーに聞き返す。

 

「その兵器はまだ開発途中だったのでな。相性があるらしい。

一応ワテも適性検査には通ったんだが、勝手に兵器からハマられることはなかったな」

 

シャーは俺をまじまじと眺める。

 

「まぁ、ワテが闘わなくてよくなったんだし、ラッキー」

 

シャーは小指を立てて喜んでいる。小指立てるのはバーコード星人ならではの何かなのか?

俺は気になってしかたなかったが、それよりも重大な話題だったためツッコまなかった。

 

「ちょ…闘うって…俺が?」

 

俺は恐る恐るシャーに聞く。

 

「兵器に選ばれたヒーローだ。おめでとう!やっぱり地球は地球人が守ったほうがカッコイイよな!

そのほうがやる気出るだろ?ぶっちゃけワテはそこまで乗り気じゃなかったし」

 

シャーは上機嫌にサラッととんでもないことを言う。

 

「そそそんなっっ…!!」

 

俺はもう信じるとか、信じないとかの次元の話ではなくなっていた。

このハゲが目の前にいる限り、やっぱり昨日のことは夢ではなくて。

実際に崩壊した花壇に塀、盆栽を一瞬で元に戻してしまった。

そして一瞬にして沖縄に飛ばされ、全身タイツになって、ちくわで敵をやっつけた。

 

「…あれ?じゃぁ俺、どうやって帰ってきたの?」

 

当初の疑問に戻った。

 

「ああ…」

 

シャーが思い出したように言う。

 

「その兵器には、たっくさんいろんな機能がついてるから覚えてね。あ、説明書渡しとくから」

 

シャーは少年ジャンプくらいある、分厚い本を俺に渡す。

 

「心配するな、ワテもできる限りサポートしてやるから」

 

シャーはやっぱり小指をグッと立てて笑う。

もしかしてその小指は、地球でいう親指を立てて『大丈夫』とか『良い』とかアピールするポーズに匹敵するのか?

俺はシャーの不思議なポーズに、ある仮説を立てながら説明書を開いた。

 

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打倒‘KATSURA’!!

この特別警察部隊秘密兵器は反政府組織‘KATSURA(以下‘K’)の陰謀阻止のため、開発されたものであり……(以下省略)

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面倒くさいからとばしちゃえ。

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取り扱い方(装着の仕方)

オシャレなブレスレットタイプなので、どんな服にもあわせられます。

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え?ファッション性重視?

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防水加工なので、海水浴や温泉でも安心!

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おいおい…兵器だろ…。

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注:一度装着したら、任務終了まではずれないので気をつけてね

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軽くとんでもないこと書いてるな。

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(使用法)

三回こすると肉体強化スーツへ変身できます。元に戻る時も三回こすってください。

注:スーツ装着中は攻撃、防御などの戦闘能力が爆発的に上がります。

まだ慣れないうちは、次の日に副作用が出てくるかもしれないのでご注意ください。

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…副作用!?

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(機能)

一、‘K’探知機能

地球内に‘K’が侵入すると、本体が赤く点灯し警報がなります。

‘K’の意識がなくなったり、地球外へ排除した場合、スーツに変身した場合、点灯は消えます。

※警報はお好きな曲に変更できます。

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着うた感覚かよっ!

ディスプレイもないのにどうやって設定するんだよ!

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二、テレポート機能

本体が赤く点灯中に、本体を上にかざすと‘K’のそばまで瞬間移動ができます。

警報もなにもない状態で本体を上にかざすと、持ち主の家の前まで瞬間移動します。

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……………………………………そうかっ!

俺は朝起きて、背伸びをした!

その時が警報も何もない状態だったから家まで帰ってこれたんだ!

俺は一連の出来事にやっと納得した。

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三、武器収納機能

肉体強化スーツ装着時に、武器を二つまで収納することができます。

(収納方法)

スーツ装着時に右目を押すと、ボックスワンが開きます、左目を押すとボックスツーが開きます。

(武器の取り出し方)

一回こするとボックスワンの武器が、二回こするとボックスツーの武器が取り出せます。

 

※この機能は自分以外の他人にこすられた場合は発動しません

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…他人にこすられる場合ってあんのかな?

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四、緊急時お知らせ機能

持ち主が生命の危険な状態になった場合、ブレスレットまたはベルトが黄色く光り、SOS信号を発信します。

最寄りの特別警察派遣部隊基地に信号を飛ばして救援を呼びます。

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…最寄りの特別警察派遣部隊基地って地球にあるのか?

てか、あの時の黄色い光と電子音ってもしかして……コレ?

 

俺は昨日の出来事を思い出す。

 

 

ドンドンっ

 

ふいにシャーの部屋のドアを誰かが叩いた。

 

「おぉ〜い、シャー少佐!生きてますかぁ?」

 

ドアの向こうから若い男の声が聞こえる。

 

「誰だ?」

 

シャーが玄関に向かって叫ぶ。

 

「ワテですよ〜!銀河駐屯地のハロゲン=ピーターです!」

「おぉ!ハロか!」

 

シャーは名前を聞くなり玄関に飛んでいきドアを開けた。

 

「少佐から救援信号を受けて駆けつけたんですけど…お変わりありませんか?」

 

えぇ!?昨日のSOS信号の救援が今くるのかよっ!?

 

「え?ワテ、信号出した覚えないけど…あぁ、ワテのマイカーが墜落したからかな?まぁ、いいや、あがれよ」

 

シャーは部屋に男を入れた。俺は名前を聞いて、なんとなくそんな気がしたんだ。

…やっぱりバーコード頭だった。もう俺は驚かなくなっていた。

 

「部下のハロゲンだ」

 

シャーが俺に紹介をする。

 

「特別警察部隊で銀河駐屯地に勤務中のハロゲン=ピーター中尉です!」

 

ピーターは小指を立てて敬礼をする。

 

「通称、ハロだ」

 

やっぱりガンダム絡んでんだ。そしてやっぱり小指立てるんだ。

俺はもうツッコむ元気もなくなっていた。

 

『…続いて次のニュースです』

 

テレビから新人アナウンサーの声がした。いつの間にか天気予報からニュースになっていたようだ。

 

『昨日、沖縄県の観光名所、首里城で40代前後と思われる男性が次々に観光客を襲う事件がありました』

 

これ…あの昨日のあの事件じゃん。

 

『幸い、怪我人もなく、犯人はすでに額にキュウリが刺さって気絶しているところを警察に取り押さえられました』

 

…キュウリ!?

 

『目撃者の証言によりますと、全身派手なタイツの男性が犯人と闘ったそうです。

被害者の証言によりますと、その男性は‘ヤマトマン’と名乗ったそうで……』

 

「あ――――――――っ!」

 

『犯人は拳銃を持ってて、私や他の人につきつけてたんですけど、ヤマトマンが現れてちくわのようなもので助けてくれたんです』

 

モザイクをかけて変声機で声を変えているが、明らかに昨日俺が助けた女性だ。

 

「うそだろぉぉぉぉぉ!!」

 

『変質者同士の揉め事でしょうか…幸い、重症者はおらず軽傷者三名ですんだ模様です』

 

新人アナが軽蔑の表情で一言言って、この事件を片付けた。

 

「よかったなヤマト、さっそく活躍が報道されとるな」

 

シャーはニヤニヤと笑い俺の背中を軽く叩く。

 

「活躍どころか変質者扱いされてるんですけどっ!」

 

俺はシャーを睨みつける。

 

「まぁまぁ!いやぁ〜さっそくあの肉体強化スーツが活躍したみたいですね!でも…なぜ少佐ではなく、地球人が?」

 

ハロと名乗るバーコードハゲが不思議そうにシャーにたずねた。

 

「いやぁ〜コイツが勝手に腕にハメやがってなぁ、自分が地球を守るんだときかなくてなぁ」

「おいっ!何勝手に…!!!」

 

俺はシャーに口を塞がれる。

 

「仕方ないからワテがサポートしつつ、コイツと‘K’を取締ろうかとね」

 

なんだとぉっっ!!!

 

「さすが少佐です!心が広い!見ず知らずの地球人を受け入れるなんて…宇宙より広い心ですね!」

 

ハロはキラキラと尊敬の眼差しでシャーを見つめる。

 

「まぁ、そういうことだ。地球人が兵器を使っていることはあまり口外するなよ?それじゃ、任務ごくろうだったな」

「はい!少佐の判断に異見はありません!少佐も引き続き、お勤め頑張ってください!」

 

そう言ってハロは小指を立てて敬礼をし、部屋から出て行った。

 

「おい、てめぇいい加減にしろよっ!!」

 

俺はシャーの手を振りほどき怒鳴りつける。

 

「地球守るなんて…そんな責任重大なこと押し付けんなよっ!!これの外し方とかねぇのかよっ!!」

 

シャーは黙りこくっている。

 

「なんとか言ってくれよっ!!」

 

俺はちゃぶ台を思いっきり両手で叩いた。

 

「…取説にもあるとおり、任務終了まではずれん」

 

シャーは重々しく口を開く。

 

「‘K’の殲滅まで頑張ってくれ」

「ふざけんじゃねぇよっ!俺、ごく普通の一般人だからっ!大学生だし授業や課題てんこ盛りだっつうの!!」

 

俺はちゃぶ台をバシバシ叩く。しかし俺の怒声にシャーもキレた。

 

「ワテだってミスって地球人に兵器が吸い付きましたぁ〜とか、立場上言えんのんじゃぁ!!

ワテも被害者なんだよぉぉぉ!!そこんとこわかれよぉぉ!!」

「知るかよっ!!こっちのほうがいきなり宇宙人だなんだって被害者なんだよっ!!」

「こっちだって愛する家族をおいてきてまで仕事してんだよぉぉ!!地球なんか知ったこっちゃねんだよぉぉ!!」

 

 

ビーッビーッビーッビーッ

 

俺とシャーが言い合っていると、突然ブレスレットが赤く光り、けたたましく鳴り始めた。

 

「…………出動だ」

 

シャーは眉間にシワをよせ、有無を言わせぬ命令口調で言った。

 

「出動ったって…」

 

俺はシャーの声に少しビビりつつ、抵抗を続ける。

 

「ヤマト、おまえは自分の星が全然知らない星に、突然支配されてもいいのか?

銀河を超えた遠くの果てにある星の、全く関係ない争いに愛する人が巻き込まれていいのか?」

 

シャーは諭すように語りかけた。

 

「…………………」

 

愛する人が巻き込まれたら…

 

俺の頭に母ちゃんと妹の顔が横切った。警報がけたたましく鳴り続ける。

 

「…さぁ行け、おまえならできる!」

 

シャーが肩をガシっとつかんだ。

 

 

なんでこんなことになったんだよ

俺は平凡に暮らしてきたのに

なにが宇宙人だ、このバーコードハゲ

なにが地球を守れだ

 

 

 

「ちくしょ――――――っ!」

 

 

俺はやけくそで左手を高く突き上げた。

 

 

 

辺りを見回すと、通りの両脇にビッシリと店が並んでいる。観光客だろうか、人がたくさん行き交う。

『ちんすこう』とか『マンゴー』とか『シーサー』とか書いた看板が立ち並ぶ。

 

また沖縄?

 

もしかして…ここ国際通りとかいう場所なんじゃ…。俺は直感でそう気付いた。

ふと目の前の土産屋で、ちんすこうを持ってウロチョロしているバーコードハゲがいる。

 

あいつ…昨日の…?

 

俺は目の前のバーコードハゲが、昨日の事件の犯人と同一人物だと感じた。

ハゲは2箱ちんすこうを持ってレジに並んだ。何やら金髪のはじけてる男性店員と言い合いをしている。

ハゲはポケットをひっくり返して慌てている。

 

…あ、あのハゲ、サイフ持ってないのか?

店員ぶちギレてんじゃん…ハゲ謝ってるし

あ、店員がちんすこう投げた!

ハゲ、なんか怒ってるよ…

ああぁぁぁ!キレた!!拳銃出した!!

て…えぇ!?

店員も銃出したよ!?

これヤバくね!?!?

 

『おい、ヤマト、敵はいたのか?』

 

ブレスレットからシャーの声がする。

 

「おい、どういうことだよ、昨日のバーコードハゲが土産屋で

ちんすこう買おうとして店員とドンパチやる寸前なんだけど」

 

俺はブレスレットに向かってシャーに聞いた。

 

『おまえ、バーコード星人が地球の警察なんかに捕まるわけないだろ。昨日ちゃんと捕獲しなかったから…』

 

警察なんかにって…バーコード星人ってそんなにすごいのか?

いや、その前にドンパチを阻止しないと

 

俺は土産屋の中に入った。

 

「ちょっと!危ないからやめなさい!」

 

俺は二人に近寄る。

 

「なんだてめぇ?このオヤジの仲間か?」

 

店員が俺に銃を向ける。

 

「そうじゃないけど…この辺は店も人も多いんだから、そんな物騒なものはしまって!」

 

ブレスレットの警報は鳴りっぱなしである。ふとバーコードハゲが大和の腕に気がついた。

 

「…そのブレスレットはっ!!まさか…おまえっ!!」

 

ハゲも銃を俺に向けた。

 

えっ、ちょっと二人して俺に向けないでよ…怖いじゃん

 

俺はとっさに両手を小さく上にあげる。

 

『ヤマト、早く変身するんだ、生身のおまえじゃ何もできんぞ』

 

ブレスレットの向こうでシャーがせかす。

 

確かにこの状況はバンっと一発でお陀仏な状況だな

 

俺は両手を頭の後ろへ持っていき、素早く三回こすった。

カッと真っ白い光が店内に広がる。

 

「うわっ」

 

店員とハゲは反射的に目をつぶる。変身完了。

 

「ななな、なんだてめぇ!?」

 

店員は俺を見てビビる。

 

「…くそぅ、出たな!やっぱりおまえか!!」

 

ドンッ!!

 

ハゲが俺を見るやいなや、銃をぶっぱなした。

 

「うわぁっ!!」

 

ウソぅっ!?あ〜ぁ、俺死んだ

 

俺は驚いたが意外にも冷静に、死を覚悟する。

 

ん?なんともない??

 

俺は恐る恐る自分の身体を確認する。風穴どころかかすり傷ひとつない。

 

「ちくしょう、やっぱりそのスーツにはキュウリ弾はきかないか」

 

ハゲは悔しそうにいう。

 

キュウリ弾?

 

よく見ると足元にはキュウリ細切りが落ちていた。

 

おいおい、コイツらの武器ってキュウリかよ

 

俺は気がぬける。

 

「な、なんなんだてめぇらはっ!!」

 

店員が銃をこちらに向けたまま震えている。

 

「…チッ、うるせぇなぁ」

 

ハゲは店員に銃口を向けた。

 

「な、やめろ!」

 

人間にキュウリぶちこんでどうなるかはわからないが、とりあえず俺は銃口と店員の間に飛び込む。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

店員はパニックになり銃をぶっぱなした。ハゲもキュウリをぶっぱなす。

俺はちょうど二人の間に飛び込み、両方の攻撃を被弾した。

なんかちょっとチクッとしただけで、なんともない。俺は呆然とする店員の手から銃を奪い取る。

その銃でハゲの手をたたき、ハゲの銃も床に払い落とす。そのままハゲの腕を取り、俺は一本背負いを決めた。

そのまま肘固めに入る。別段、柔道をやっていたわけではないのに、体が勝手に動いた。

 

「おいシャーさん、捕獲ってどうするの?」

 

俺はベルトに呼びかける。

 

『あぁ、捕獲はな、チワワで奴の額に印を押せ』

 

またあのちくわかよ

 

俺は言われたとおりにベルトを一回こすって、チワワと呼ばれるちくわを取り出す。

 

印を押すって…どうすんの?

 

とりあえずちくわを関節技で苦痛に歪んでいる奴の額に押し付けた。

すると額に『馬』という印がつき、そこから馬の首がはえてきた。

 

「な…なんじゃこれっ!気持ち悪っ!」

 

俺はビビる。ハゲの額に生えた馬はこちらを見て一礼すると、首の部分に羽を生やして、羽ばたきだした。

するとハゲが宙にうき、どんどんと上にのぼる。俺は目の前の光景に目を疑う。

ハゲの額から生えた馬は、羽を羽ばたかせ気を失っているハゲを持ち上げ、どんどん上昇していく。

そのまま宇宙に行く勢いで。

俺は唖然とその気持ち悪い光景を見ていた。

 

「う…うわぁぁぁぁ!!!」

 

店員の叫び声で俺は正気を取り戻した。

 

げっ、あんな変な光景、どう説明するんだよ

 

俺は急いで頭を働かす。

 

しかし店員はハゲの馬印など見向きもせず、俺を見て怯えている。

 

「あ…あのハゲオヤジはどこいったんだっ!?」

 

店員は信じられないという顔で俺を見る。

 

「おまえも…何者なんだ!!」

 

…え?コイツ、この馬オヤジが見えてねぇの?まぁ…そのほうが嬉しいけど

 

「なんだあれは!?」

「タイツ人間よっ!!」

「変質者が出たっ!!」

 

街行く人々に見つかった俺は、口々に思ったことを言われる。

 

げぇ…最悪

 

俺は店を出て走る。

 

なんだよ、正義のヒーローとかなのに空とか飛べねぇのかよっ

 

俺は野次の飛び交う国際通りを全身タイツで苦い顔をして走り抜けた。

 

脇道にとびこみ、周りに人がいないことを確認し、ベルトを三回こすって俺は井上大和に戻る。

それにしても、人の額から馬の首が生える光景はなんとも言えない気味の悪さだった。

俺はいいことをしたんだろうけど、なんとも言えない後味の悪さを味わいながら、ブレスレットを頭上にあげる

 

「おかえりヤマト〜!」

 

シャーはアパートの前で俺を出迎えてくれる。

 

「……あの馬はなに?」

 

俺はもううんざりという顔でシャーに尋ねる。

 

「あ〜ナカシマ君?あいつが敵を特別警察部隊銀河基地まで搬送してくれるんだよ」

 

ナカシマ君って…

 

「お疲れさま、とりあえず…お茶でも飲む?」

 

シャーが部屋へ誘う。

 

「あ!!井上君!!ゴメン、ちょっと手伝って!!」

 

突然、大家さんの声が庭のほうからした。俺とシャーは何かと思い、庭に回る。

 

俺は息を飲んだ。

庭が昨日シャーが墜落したままの状態に戻っていた。

 

「ひどかろっ!誰がこんなんしたんやろうねっ!!絶対許さんっ!!」

 

大家さんはカンカンに怒って花壇を掘り返す。

 

「確かに昨日元に戻したよな…」

 

俺はシャーに小言で言う。シャーがボソッと呟いた。

 

「あの復元機…効き目24時間なんだ…」

 

俺とシャーは大家さんの怒りの叫びを聞きながら花壇に花を埋め直す。

 

俺は一体何やってんだ…

 

西に消えていく夕陽を見ながら、俺はハゲのオヤジと土いじりに精を出した。

 

                                       第二話 完

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